[イルシブ]? [イクシブ]?
ドラマ「砂の上にも花は咲く」
Netflixで2023年12月からはじまった韓国ドラマ「砂の上にも花は咲く」を楽しく見ています。
ドラマ「今日もあなたに太陽を」にもヒロインの幼なじみ&親友役として光っていたチャン・ドンユンさんが14㎏も増量してシルム(韓国の相撲)の選手役として挑んだという作品です。
この第8話で、やけに「既読スルー」という言葉が出てきます。チャン・ドンユンさん演じる心がまっすぐなヒロインが、既読スルーされたら眠れなくなるくらい困るんだと力説するシーンがあるのですが、そこで出ていた言葉をいくつか挙げると・・・・・・
「既読スルー」に関連するセリフ
- 읽었으면 답장을 해아지 (読んだなら返事をしなくちゃ)
- 문자도 씹고 말이야, 심지어 그, 읽씹을 (メールも無視して、しかも既読スルーを)
- 읽씹은 거진 법죄다, 법죄(既読スルーはほとんど犯罪だよ、犯罪)
酔って話したこのような内容を、シラフになってからまた繰り返します。
じつは第7話でも
- 니 어제 내 문자 와 씹어노? (おまえ、昨日オレのメールどうして既読スルーした?)
- 야, 나는 문자를 씹히면은 체질적으로다가 잠을 못 이루는 스타일이거든? (おい、オレは既読スルーされたら体質的に眠れないタイプなんだよ)
という振りがあってからの展開となっていました(*'▽')
읽씹とは?
「既読スルー」を意味する名詞。
<「読む」という意味の動詞=읽다>と
<「噛む」や「ほかの人の意見についてじっくり考える」という意味の動詞=씹다>
からできた名詞
「読む」の原形읽다とその読み方
「読む」を意味する動詞の原形は읽다で、発音はたいていどのテキストや参考書にも[익따](=パッチムㄺの部分でrを発音せずkの音だけ読む)とかいてあります。
ちなみに、ソウルの人*1ははわずかにㄹ(r)の発音を入れることが多い、と習ったこともありますし、ㄹの音が強くなりㄱ(k)の音も消えて[일따]と発音する人も実際は増えているようでもあるとか。
母音が後ろにあるとき읽の発音
語幹읽の後ろが母音のとき、パッチムはㄹ(r)もㄱ(k)もの両方とも発音する
セリフにあった읽었으면(読んだなら)は[일거쓰면]です。
その他の例: 읽어 [일거] / 읽으니 [일그니] など
子音が後ろにあるときの읽の発音
原則
子音が後ろにあるとき、原則ㄱ(k)の発音。
例:읽지 [익찌]
例外
後ろにㄱ、ㄴがあるときは例外で別の発音になる。
★後ろがㄱ: 읽고 [일꼬]
(ㄹ(r)の音となり、うしろのㄱが濃音化)
★後ろがㄴ: 읽는 [잉는]
(パッチムㄱ(k)のあとにㄴがくる→鼻音化でㅇに変化)
さて、問題の읽씹の発音は?
ところが今回わたしが気になったのは읽씹「既読スルー」の発音です。
これ、ドラマの中では[일씹]と言っています。ㄹ(r)の音。
きまりに従うと後ろが子音で例外にもあてはまらないので[익씹]です。ㄱ(k)のはず。
韓国の国立国語院の辞書우리말샘でもNAVER辞書でも읽씹の読み方としては[익씹]とあります。
これはどういうことなのか?
YouTubeでは?
そこで韓国の人の実際の声を聴いてみることに!
YouTubeで「읽씹」と検索して出てくる動画を何本か見てみました。
面白いことに[익씹]と読む人も[일씹]と読む人もいるうえ、rもkも発音が聞こえる人もいる、というのがわかったのです。
閲覧した動画の多くは既読スルーする派かどうかの問いに答えてもらう内容だったり、既読スルーされないようにする対策だったり、一般の人の声を収めた動画でした。
動画の内容自体も面白かったです♬
で、읽씹の読みについては本当にまちまちだったということです。
動画に出ていた人は見たところ10~40代ぐらいで、より若い人ほどこうだというような傾向は特になかったようです。
地方によって異なるかどうかについてまでは私にはわかりませんでした。
1対1の対話式の動画のなかで、一人は[익씹]と言っているのに、対談相手は[일씹]と言っていたものもありましたが、お互いの発音のことは気にしている様子もありませんでした。
韓国語でキーワード検索
ホームページではどうだろうと、韓国語で検索してみると、[익씹]、[일씹]、そして少数のようでしたがrもkも両方発音する人や、[읶씹]と書いている人もいて意見が分かれていました。
[익씹]と読む人の意見としては、原則がそうだからという人が割と多かった点のほか、原則とは違うが思いついたりよく聞くのは[일씹]だから、という意見もありました。
一方、[일씹]と読む人の意見で説得力があると思ったのは、この単語が二つの言葉を組み合わせて作られたものだから、というもの。
つまり、もともとが읽고+씹다で、これを読むと[일꼬 씹다]となり、それぞれの頭を発音通りとってくると[일씹]となる、というものでした。なるほど~!
읽씹の読み方は、韓国の人でも分かれる
つまり、テキストや原則にしばられていたら実際に使われている言葉はおぼえられないということのようだと実感しました。
この例を日本語でたとえたら、どんな感じでしょう。
「十本」が「じっぽん」か「じゅっぽん」か、というような?
「早急」が「さっきゅう」か「そうきゅう」か、というような?
「世論」が「よろん」か「せろん」か、というような?
日本人なら話し相手がどっちを使っていても気にならないけど、日本語を学習する外国の人にはきっと悩みの種になる、似たような例なのではないかと思います。
「既読スルーはほとんど犯罪だよ」
今回学んだこの単語읽씹は、韓国語を学ぶものにとっては悩ましくて、ドラマのセリフをまねると「この発音が犯罪よ・・・・・・」とぼやきたくなるところです( ´∀` )
もっと詳しく調べたら楽しそうですが、沼は深そうです。
他の角度から記事を書いてみたいと思った関連テーマも見つけられたので、それはまた別の機会に!
韓国語の奥深い楽しさに触れられたから、고마워★コマウォ★ありがとう!
正解はひとつだけじゃないしテキストの中身ばかりが正解ではない、とわかったので心を軽くしてドラマの続きを楽しみます!
そして明日以降放映となるドラマの続きから、追加したい内容が出てきたら更新していきたいと思います。
*1:そもそもソウルの人と言っても各地から人がどっと集まるところなので「ソウルの人」の定義があいまいですよね・・・・・・ソウル市は韓国の総人口の22%ほどが、ソウルを含む首都圏では総人口の50%ほどが住んでいるのですから、「ソウルの人は」=「現代の韓国では」とも考えられるのではないでしょうか?